勝手に応援企画:はるかなる

Everlasting Blue 2010今年も開催されるそうです!(ぱちぱちぱち)
FF10の二次創作活動は完全に停止していますが、皆様の愛とはちょっとひねくれた形で未だに10を愛しておりますゆえ、昔書いたもののお蔵出しをします。(FanFicには載せていないものです。なので自分としては多少質が落ちるかとは思いますが、記録と記憶好きの自分のバイアスがよく出てる拙作でもあります)

興味のある方は以下どうぞ。

はるかなる

少年はゆっくりゆっくり語り出す。神聖な文章を読み上げるように、静かに、しかし確実に。
その傍らで少女は筆記具を走らせる。彼の一言一言を逃さぬように、いとしむように。生成り色の紙はすぐに文字で溢れた。彼女が急いでページを繰ろうと、ばらりと散らかしてしまったのを見て、少年は微笑んだ。ちょっとだけからかうような、それでも暖かい眼差しを向けながら。
「今日はここまでにしよっか?」
「ううん。もうちょっとやっておこうよ」
最後の一枚の白紙を渡されながら、少女は目元にしか疲れを見せずに笑い返す。
穏やかなその日もとうに暮れなずみ、緩やかな音をたてて夜が落ちてくる。窓の向こうの空には目覚めたばかりの星々たち。
少女は燭台に火を付けた。ちらりちらりと揺れる炎の影の下で、彼女はしきりに手を動かした。書きつづるその言葉ははるかな千年の歴史。

彼の故郷の物語。

きっかけらしいものがあったとは、ユウナには思えない。けれど少年はこの世界に戻ってきた意義を自分なりに考え込んでいたようだった。
『一番目。もっちろん、ユウナのところに戻んなきゃ、って思ってた』
その言葉に反応して、少女がぽっと頬を染めた。にかっと笑って彼は続ける。
『二番目、ブリッツ!親父の言ってたてっぺんからの眺めっての、まだまだ堪能してなかったしな』
そこで言葉を切ると、じっと彼は自らの掌を見つめた。
『それにもうひとつ、伝えなくちゃいけないことがあるって思ってる。何にも進まなかったんだ。でもそれだけそこには残ってたんだ』
不思議なものいいに、少女は首を傾げた。
『なにが?』
『俺の、ザナルカンド』
少女ははっと目を見開いた。
彼は静かに微笑んでいた。

「もっと真面目に勉強してればよかったって、今更だけど思うんだよな」
今日も穏やかな一日を終えて二人向かい合って茶を飲む。機械化が進んで家の中にも随分とマキナが入り込んでいたが、彼等はゆうらりと燃える蝋燭の炎が好きだった。彼等の間を隔てるものは、その細い一本だけ。
「キミはとても頑張ってるよ。キミの考えを聞いたとき、私、すごいなって思ったもの」
素直な賞賛に、少年は困ったように笑って頭を掻いた。
「何の役にも立たない気もするけどさ」
「そんなことないよ!ギップルさんもリュックもキミの話を心待ちにしてるんだよ!私もキミの話を聞けるのが、すごく楽しいもの」
楽しいと同じくらい嬉しい、でもあるけれど、とほのかに上気した頬で彼女は呟いた。
「確かにキミのザナルカンドは千年前のザナルカンドとぴったり同じじゃないかもしれないけれど、きっとみんなの大切な知識になるよ」
”夢のザナルカンド”の存在を知る者はごく僅か。
シンの存在、ベベルとザナルカンドの真実、エボンを祀る宗教の変遷については、絶対数は少ないものの、寺院の奥底に厳重に潜められてきたぶん、結果として、よい保存状態のまま伝えられてきた。
しかし、夢のザナルカンドの記憶を語る者は少年をおいて他にない。彼がつい二年ほど前まで住んでいた、過去の繁栄を似せたその幻の都市は、彼が口を閉ざせば、朽ちる時間も与えられずに消え失せる。
そこに残されてきた知識とともに。
だから彼は残すことに決めたのだ。彼がこれから生きる変動する未来に、少しでも貢献できるならば、という願いと、儚い街に住む人々の物語をお伽噺としてでもいいから残したいという志とで。
スピラで千年を経て消滅した技術や社会や人々、そこに住んでいたときには意識することさえなかったそれらを、彼は思いついたはしから語った。
機械の仕組みなど全く詳しくなかったから、日常使い慣れていたそれらの大まかな形状しか述べられなかった。しかし、口述筆記の場に偶然居合わせたリュックは目を輝かせて飛んでゆき、ギップルと名乗る青年を連れて飛んで帰ってきた。彼等は少年が語る物語を聞きにやってくるのが習慣となった。
その片目の青年は、少年の話を暫く聞き入っていたかと思うと、続けざまに質問し、流れるような形のバギーや巨大なタンクローリー、その他忘れられそうになっていたものたちを、少年の口から聞き出した。数週間経って彼が得意そうに持ってくる滑稽な試作品に、きまってユウナとリュックは笑い転げた。しかし少年たちは大まじめに、次へのステップのために頭を付き合わせていた。
「でもね、キミが機械そのものに興味があるって、知らなかったな」
「別に、機械をいじくるのが好きってわけじゃないッス。もっぱら使う方だったしさ」
かりかりと頭を掻いて、照れくさそうに次の言葉を紡いだ。
「俺は、祈り子たちとユウナとザナルカンドの人たちが作ってくれた想いかもしれないけど、想いだけじゃ結局何にも残らないだろ。でもギップルは、ザナルカンドをかたちにしてくれる、スピラにザナルカンドが残ってく」
たとえ、その由縁を忘れられたとしても。
哀しい人たちの物語がかたちの中にひっそりと隠されてゆく。

「俺さ、ほんと、みんなに感謝してるんだ。俺に存在を与えてくれた親父とおふくろ、スピラに戻してくれた祈り子、諦めないで呼んでくれたユウナ」
少年は指折り、感謝したい人々を挙げていく。
「あのスフィアを見つけたキマリ!ユウナを誘い出したリュック、背中を押したルールー、なんだかんだ言っても歓迎してくれたワッカだろ、アーロンもきっと苦笑いしてるだろうけど、あの嫌みなゴワーズの奴らも、トワメルもさ」
この世界まるごと、愛しい。
「真実を知らなかったらそんなありがたみは分からなかったと思うんだ」
「……本当に、キミは世界そのものなんだね」
ユウナがそっと優しい溜息をついて、言った。
「でも、ずっとそう思ってた。キミが守ったんだもの、きっとキミは世界に溶けてそれで……ずっと」
思わぬ涙が一粒流れる。
うれしさか、そのときのどうしようもない空漠さを思い出したのか、俯いたユウナにも分からない。
「ずっといてくれてるんだって思ってた………」
背後から暖かさが忍び寄ってそっと彼女の肩を包み込んだ。
「うん、いたよ。俺はずっと。もし戻って来れなくても、絶対遙かな未来まで、ユウナと一緒にいたよ。俺の物語、じっと見ていてくれただろ?」
語られてゆく物語は、決して一人だけのものじゃない。それが生きる限り、一緒だ。
彼は呟いた。

「なあ、今度はユウナの物語、俺が書くよ!小さい頃とか全然知らないんだもんな。いっぱい教えてくれよな。秘蔵スフィアも楽しみだしさ」
すると、少女はふるふると首を振った。
「違うよ。次に書くのは二人の物語って決まってるの。その物語が語られていくなら、ずっと二人でいられるよ」
少年は瞳を見開き、一瞬後、微笑んだ。
たとえある日不意に、この身体が空に、大地に、海に消えていっても。
物語というかたちで二人の絆は残っていくだろう。
不安がることなど、もう何一つないのだ。

「そうだな。遙かな未来まで」
「うん」
「一緒にいような」

世界で一番確実なお互いの手のひらを握り合わせ、小さく交わす言葉たちは至上の宝物。
彼等はその日もまた新しく、小さな約束を紡いだ。

FIN

…んで、さーばの中をあさってたら「ええっちょっと待って!」とユウナが叫んだまま途中でちょん切れてる二次創作が見つかりました。…読む人いる?(呵々大笑)
いたらともかくもエンドマークをつけようかと。

さらに個人的にこれでDCの二次創作を終わりにしようと思っていたネタがあるんだけど、それが行方不明になっちゃっています。サイトの構成たびたび変更しているけど、そのたびにファイルを全然管理してなかったもので。これ完全に闇の方に消えたか…

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